千葉県木更津市請西南のお花屋~フラワーショップ「エールフラワーズ」。 お花農家や市場より直送された品質のよい花々をお客様のお手元へ

2013.02.18

花ことばエッセイ

フラワーエッセイ

花ことばエッセイ
「チューリップ……逸話多き愛の花」
                               都築隆広

定年退職した父が、新潟旅行のお土産に球根を買ってきた。
写真も説明書きもなく、手に取るとずしっと重い。
剥き出しの球根である。
……なぜに、新潟でチューリップ? さっぱりわからない。
とりあえずシャベルで地面を掘って、庭先に植えてみた。
ところがこの球根、植えてから幾日待っても、一向に芽が出る気配すらなかった。

         ◎ ◎ ◎

図書館で植物図鑑をひもとき、チューリップについて調べてみる。
驚いた。どんな花にも各々、エピソードがあるものだが、ことチューリップは知名度も高く、身近に咲いている花ということもあってか、まさに逸話の宝庫である。
その栽培法は二の次にし、あちこちの関連書を読み耽ってしまった。

◎ ◎ ◎

そもそも、チューリップは十六世紀に、トルコからヨーロッパに入った花だった。
ペルシャ語でターバンを意味する「チュリバン」に花の形が似ていることで、その名が誤って伝わったのが由来のようである。
やがて愛好家達の間で栽培熱に拍車がかかる。オランダでは千六百年代前半に球根の値段が高騰し、有名な「チューリップバブル」が起こった。
現在では五千とも八千ともいわれるチューリップの品種だが、この時代、珍しい品種はなんと、球根一つが馬車や邸宅と交換されていた。

◎ ◎ ◎

 金と愛とを象徴する花として、チューリップは多くの小説や映画の題材にもなった。
 作家で脚本家の、デボラ・モガーが書いた「チュリップ熱」(白水社)は「チューリップバブル」の時代に燃えあがった不倫の愛の物語で、スティーブン・スピルバーグによって、すでに映画化が決定しているらしい。
古典文学では、同じ「チューリップバブル」の時代の恋と冒険を描いた大デュマの「黒いチューリップ」も有名だ。
ちなみに「椿姫」を書いたのは息子の小デュマで、「三銃士」を書いた父親の大デュマと、この作家親子は「大・小」で区別されている。
「黒いチューリップ」といえば、アラン・ドロン主演映画を思い出される人もいるかも知れないが、こちらは別物。「マスク・オブ・ゾロ」のような覆面怪盗が活躍する活劇である。その他にも児童文学では新藤悦子の「青いチューリップ」(講談社)もある。
昔は、大金をかけて品種改良をしても、黒いチューリップが生み出せなかった。青いチューリップに至っては、現代でも作られてはいない。
チューリップは物語において、ある種の、謎(ミステリー)の象徴とされたのであろう。

◎ ◎ ◎

日本には十九世紀に入り、新潟や富山で栽培された。
チューリップの球根は冷蔵庫に入れると発育が早いといわれているが、寒い地方の方が栽培に適しているらしい。

◎ ◎ ◎

庭に植えた球根は、いつまでたっても芽が出なかった。
そこで、父の園芸仲間のおばさんに相談したところ、「そっと土を掬って見てみればいい」という、シンプルかつ論理的なアドバイスをうけた。
早速、ここ掘れワンワンと土を掘ってみる。

◎ ◎ ◎

一目見るなり、ほっと、ひと安心。
土中で腐ることなく、球根の表面からは小さな芽が、申し訳なさそうに生えていた。
果たして、何色に咲くだろう――?
オランダから海を渡り、新潟から我が家の庭先へ。長い歴史の旅をしてきたチューリップには、なんともいえないロマンとミステリーの香りが漂う。
生えかけた芽にそっと土を振りかけて、私は春の訪れを待った。

  チューリップの花言葉……「愛のめばえ」「愛の告白」「永遠の愛」「博愛」

                                  (了)
参考文献
「花物語 100 FFLOWER STORIES」 
三浦宏之 著 深川友記 写真 双葉社
「誕生日の花図鑑」           中居恵子 著 清水晶子 監修 ポプラ社

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