フラワーリング (頭用)
花ことばエッセイ
「バラ、スミレ、パンジー……恋する花々」
都築隆広
花屋が賑わう季節である。
二月のバレンタインデー、三月のホワイトデーともなると、店先には色とりどりのブーケや早咲きの桜まで並んでいる。
桜はお受験の験担ぎ用もあると思うが、それ以外はたいてい、恋人達が贈りあうための愛の花である。
花束はおろか、チョコの味さえ忘れかけていた筆者は、真夜中にふとカレンダーを見て「あれ? 今日はバレンタインだったのか?」と気がつくのが毎年の恒例となっている。
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恋の花といえばバラである。
女性に贈る花の代名詞で、おそらく、世界で最も、逸話の多い花だといえよう。その名は古代ケルト語「Rodd」、赤い花が由来だといわれ、紀元前二千年代のバビロニアから栽培されてきたというのだから、眼が眩みそうな話である。
温暖な気候を好み、暖かい土地なら冬でも育つ。
当然ながらあらゆる文芸・芸術作品に登場する花であり、中世の宗教画にも古くから描かれている。
聖母マリアの象徴としてよく絵画の中で見かけるのは百合だが、純潔の象徴として白いバラが描かれることがある。赤いバラだと美の女神、アフロディーテの象徴となる。
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少し前にこのコーナーで「黒いチューリップは存在しない」という逸話を紹介したが、「青いバラ」も長年、多くの園芸家達が挑戦しながらも、誕生しなかった悲願の花である。
長年、私も実在しないものだと思いこんでしまっていた。
しかし、二十一世紀の最先端のバイオテクノロジーによって、いつのまにか誕生していたようだ。
黒いチューリップと同じく、不可能といわれ続けてきた青いバラだが、今や青色発光ダイオードかと思うぐらい青い品種を見かけることも、そう珍しくはない。
ちなみに、花言葉は「奇跡」である。
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恋の花というと、バラのイメージが強いが、スミレ科の花も捨て難い。
鉢植えや花壇で見かける、あんな小さな花々なのに何故?
と、思うかも知れないが、どちらかというと花自体よりも、逸話の方に意味がある。
古代ギリシャでは美少年アッティスの血が変じて生まれたといわれるスミレ。
日本語名は「すみつぼ」に形が似ているからとも、万葉集に記された「須美礼(すみれ)」が語源だともいわれる。花を引き合って子供が遊べることから、「相撲取り草」の別名も持つ。
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山道や石垣の隙間から、ひっそりと咲いている……というのが万人共通の、スミレのイメージだろう。
ゲーテが詩を書き、後にモーツァルトが曲をつけたといわれる歌曲、「すみれ」も名曲である。
野に咲くすみれ、
うなだれて、草かげに。
やさしきすみれ。
うら若き羊飼の女、
心も空に足かろく、
歌を歌いつ
野を来れば。
「ああ」と、切ない思いのすみれそう。
「ああ、ほんのしばしでも、
野原で一番美しい花になれたなら、
やさしい人に摘みとられ、
胸におしつけられたなら、
(中略)」
ああ、さあれ、ああ、娘は来たれど、
すみれに心をとめずして
あわれ、すみれはふみにじられ、
倒れて息たえぬ。されど、すみれは喜ぶよう。
「こうして死んでも、私は
あの方の、あの方の
足もとで死ぬの」
「ゲーテ詩集」高橋健二訳 新潮文庫
スミレを擬人化した歌である。
少女に摘まれたいと願うスミレだが、無常にも踏みにじられてしまう。
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人の心というものは、言葉にしなければなかなか通じないもの。
現実の恋愛でもしばしば、このような事態も起こりうる。
スミレに関していえば、日のあたる場所に鉢を置けば丈夫に育つ逞しい花だ。
いかにも野に咲く花といったところで、失恋時には見習いたいものでもある。
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ヨーロッパッパ産のスミレ科の花、パンジーもまた、逸話多き花である。
パンジーの語源はフランス語のパンセ(Pensées)、「もの思い」「思索」といった意味がある。
ビオラ・トリカラーを十九世紀初めに品種改良して生まれ、人の顔にも似た花であることから、「人面草」などという、なかなかホラーな呼び名も持つ。
また、古くからヨーロッパでは、男性が女性に送る花でもあった。
そのため、「天使に愛された花」という別名や、「門のところでキスして」という花言葉もある。
恋人同士がこの花を使ってメッセージを送りあう姿は容易に連想できる。シェイクスピアの「真夏の夜の夢」でも妖精達の使う惚れ薬の原料として、劇中で活用されているのが印象深い。
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其(その)キューピットの放した矢は、西国の或(ある)小さい草の花に落ちて中(あた)り、乳白であった其花は、それからは、恋の手傷の為に、赤紫色になったんで、娘共は彼(あの)草のことを『懶惰(ぶしょう)な恋草』と呼んでゐる。
(中略)
あの花の液(しる)を眠ってゐる者の、瞼に塗ると、男でも、女でも、必ず目の開いたと其途端に見たものに見さかひもなく惚れッちまふ。
「真夏の夜の夢」 坪内逍遥訳
シェイクスピアの時代にはまだパンジーは生まれていなかったので、この花は原種のサンシキスミレであるらしい。
キューピットの矢で傷を受けたというエピソードはいかにも、ロマンチックである。
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原種のパンジーは素晴らしい芳香だったが、それを求めて人々が争うようになったので、パンジーが「匂いをなくして欲しい」と神に祈った……といういい伝えが残されている。
このあたりは、いかにも“恋の花”といったモテ・エピソードといえ、バラ水として香水にまで利用されるバラとは対照的な花だといえよう。
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人はなぜ、恋をすると花束を贈るのか?
そこには誰かに何かを見せたい、自分が美しいと感じたものを、恋した相手にも美しいと思って欲しいという、共感の願望が隠されている気がする。
山道で眼についたすみれを摘んで、麓の人にも見せたいと思う心。
あるいは野に咲くバラを誰かに見せたいと思う心。
今は花を求める場所が野山からフラワーショップに変わっているが、”花を通じて誰かと繋がりたい”という願いは、脈々と恋人達に受け継がれている。
(了)
バラの花言葉……(赤)「情熱」「愛」「美」(白)「純潔」(青)「奇跡」
すみれの花言葉……「つつしみ深さ」「誠実」「真実の愛」「ひかえめ」「謙虚」
パンジーの花言葉……「物思い」「私のことを忘れないで」「思想」「門のところでキスして」
【参考文献】
「世界大百科事典」平凡社
「日本大百科辞典」小学館
「誕生日の花図鑑」中居恵子・著 清水晶子・監修 ポプラ社
「誕生日の花・秋編」 グラスウインド 星雲社
「日本人なら知っておきたい花48選 ~花の履歴書~」 江尻光一 いきいき株式会社
「想いを贈る花言葉 ちいさな花物語」 国吉純監修 ナツメ社
「贈る・楽しむ・誕生花事典」監修 鈴木路子 写真 夏梅陸夫 大泉書店
「ザ・シェイクスピア」シェイクスピア 坪内逍遥訳 第三書館
「ゲーテ詩集」 ゲーテ 高橋健二訳 新潮文庫
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